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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)5652号 判決

原告 ミルバン・ハリーウエード 外一名

被告 呉立群 外一名

主文

一、原告ジヨン・ヘンドリー及び被告等との関係において同原告及び被告等は別紙〈省略〉物件目録記載の建物の共有権者であることを確認する。

二、原告等のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用中、原告ジヨン・ヘンドリー及び被告等間に生じた分は被告等の、原告ミルバン・ハリーウエードと被告等間に生じた分は同原告の各負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、昭和三一年(ワ)第二、三四一号事件について、「被告等は原告が別紙目録記載の建物に対する三〇パーセントの共有所有権を有することを確認する。被告等は別紙目録記載の建物について有する共有登記の持分より各々一五パーセントを原告に移転しなければならない。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決、昭和三一年(ワ)第五、六五二号事件について、「被告等は原告が別紙目録記載の建物に対する二七・八パーセントの共有所有権を有することを確認する。被告等は別紙目録記載の建物について有する共有登記の各持分より各々一三・九パーセントを原告に移転しなければならない。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、昭和三一年(ワ)第二一・三四一号事件及び同年(ワ)第五、六五二号事件共通の請求原因として次のとおり述べた。

(一)  訴外ウオルターエイゲイダ及び原告ジヨン・ヘンドリーは被告両名と共に昭和二七年一一月末日頃飲食店営業等を共同経営する目的で組合契約を締結し、右事業に供するために借地上に本件建物を建築した。

(二)  組合契約において当初各組合員の出資額はそれぞれ金二、二五〇、〇〇〇円と定められていたが、諸種の事情から現実の出資額に差異を生じ、訴外ゲイダは二、五一四、〇〇〇円原告ヘンドリーは金二、三五六、〇〇〇円を出資したが、被告両名はそれぞれ金二、六五七、五〇〇円を出資すべきところ、現実には各金一、八〇七、五〇〇円しか出資しなかつたため、結局出資総額は金八、四八五、〇〇〇円となり、従つて訴外ゲイダの出資額は総出資額の三〇パーセントを占め、原告ヘンドリーの出資額は総出資額の二七・八パーセントを占めることになつた。

(三)  本件建物は組合財産であるから、各組合員の共有に属し、各組合員は当初の組合契約上の合意により、仮に合意がないとすれば法律上当然に、本件建物についてそれぞれの出資額に応じた持分を有するものである。

(四)  ところが、昭和二七年末乃至は昭和二八年初頭の頃、総組合員四名の合意に基き、有限会社形態によつて事業をすることになつて解散し同年三月二十五日有限会社ゴールデンゲートレストランエンドバーが設立されることに因り清算は終了し、本件組合関係は消滅に帰したので、訴外ゲイダは、昭和三一年二月一四日本件建物について有する三〇パーセントの共有持分権を、原告ミルバン・ハリーウエードに譲渡した。

(五)  以上の経緯によつて、本件建物に対し原告ウエードは三〇パーセントの共有持分権を有し、原告ヘンドリーは二七パーセントの共有持分権を有しているのに、被告等は、昭和二八年一月二二日東京法務局芝出張所受付第四一七号を以て被告等両名のみの共有名義で保存登記をなし、原告両名の各持分の存在及び範囲を争い、原告等の持分割合の登記に応じないので本訴請求に及ぶ。

被告訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告等の主張事実中、被告等が昭和二八年一月二二日本件建物について被告等の共有物としての所有権保存登記をしたことは認めるがその余の事実は全部否認する。と述べ、尚本件建物は被告呉立群の個人所有であつて、その所有権取得の経緯は次のとおりである。すなわち、被告両名は訴外呉克勤と匿名組合契約を締結し飲食店営業を企てゝいたが賃借中の営業用建物が焼失したので、被告呉立群は昭和二七年一二月一日訴外藤建設株式会社に本件建物の建築を依頼したが、その建築中に訴外ゲイダ及び原告ヘンドリーから出資の申込があつたので、被告等両名は訴外ゲイダ及び原告ヘンドリーと匿名組合契約を締結し、右四名がそれぞれ金二、二五〇、〇〇〇円を出資し、被告呉立群が営業者となり、他の三名を出資者とし、利益配当は出資額に応じる約定であつたが、そのうちに、本件建物が完成したので被告呉立群は昭和二七年一二月二三日本件建物の引渡を受け、自己の負担において工事代金二、七〇〇、〇〇〇円を支払い、従つて本件建物の保存登記は被告呉立群単独名義にすべきところその敷地の借地人名義が被告呉漢新であるので、本件建物の保存登記は原告主張のように被告両名の共有名義としたにすぎない。附陳した。

〈立証省略〉

理由

1、原告等主張の組合契約があつたか

真正に成立したことについて争のない甲第一、第六号証、被告呉漢新が真正な成立を認めており、被告本人呉漢新の尋問の結果によつて作られたことが認められる甲第四号証、右被告両名の各本人尋問の結果等を綜合すると、昭和二七年一二月中、被告両名、原告ヘンドリー、訴外ダブリユー、エイ、ゲイダの四名が原告等主張の本件建物所在地で飲食店、キヤバレー等を営む目的で組合契約をし、その営業に使用するために互に出資をして本件建物の建築資金を調達し、同敷地の借地に必要な資金の一部を支払つたり、諸備品類を買い入れたりしたこと、その営業の名称をゴールデンゲートクラブ或は金門大飯店と称したこと、その事業の経営責任者は特になく、組合の業務執行を右四名のうちの誰かに委任したこともないこと等が認められ、被告両名の各本人尋問の結果中、この認定に反し右営業の主体は被告呉立群だけであつて、その他の前記三名はただ資金を提供して利益の分配を受ける立場のものであつたという部分は、同じ同各本人の供述の他の部分や前出の甲第四、同第六号証中の記載に照して採用することができない。また、前出の甲第六号及び正しく成立したことについて争のない甲第一一号証によれば、原告等主張の有限会社は右ゴールデンゲートクラブの経営を前記組合から引き継いだこと、同会社では被告等だけが取締役となつてその他の前記二名は役員にならず、出資口数をもつていないことが認められるけれども、同有限会社の設立自体は、原告等及び被告等の主張によつても、前出の各証拠によつても主として税関係の考慮からなされ出資者名義も役員の名義も他の二名が日本語や日本の法律がわからないことからただ便宜手段として別にしたに過ぎないことがわかるので、同会社の組織、出資者の名義は、前に認定した事業前記四名の組合契約によるものであることを疑わせる程のものではない。前記組合の事業に提供された本件建物の建築やその敷地が後に認定するように始め被告呉立群によつて計画し入手されたとしてもそのことも、前記四名による組合の成立を妨げる事情とする程のものでもない。そしてその他に前記の認定を覆して、被告等の主張するように、右営業は被告呉立群の経営になるもので、他の三名は被告呉立群と匿名組合契約をしたものであると認め得られる証拠は見出し難い。

2、本件建物の共有関係について

前に認定したところによれば、本件建物建築費は前記四名の組合員の出資金でまかなわれ、組合の事業に供されたものであるから、同建物は組合の財産に属するものであり、民法第六六八条によつて組合員四名の共有に属するものである。なる程、正しく成立したことについて争のない乙第一、第二号証、証人高橋芳雄の証言によれば、本件建物の建築名義人は被告呉立群であつたし、その敷地は同被告と親しい被告呉漢新が地主と特別な関係があつて借り受けたものであることは認められるが、この建物の建築名義人が誰であろうと、誰が始めに建築を思い立ち、建築に着手したものであろうと、例えば被告呉立群一人で建築を完成しその後に組合契約が成立したものとしても、同建物で組合事業を営むことを契約し、その建築費や敷地借入費の一部を組合の費用(組合員の出資金)でまかなつたことは前に認定したとおりであるし、その費用を他の組合員との間で清算して被告呉立群の単独負担とするような取りきめをしたことについて何の主張立証もない本件では、同建物は組合の財産であるというの外ない。

3、原告ウエードの共有持分譲受は被告等に対して主張できるか

民法第六七六条によれば、組合員が、組合財産の持分を処分しても、そのことを組合に対抗できない。これは組合の事業を営んだり、組合の事業経営に伴う組合員相互の債権債務を清算したりするのに差支が生じたりするからである。この意味からすれば、組合がなお続いている間、或は既に解散しても未だ清算が終つていない間は、組合員の一部がその組合財産に対する共有持分を他に譲渡しても、他の組合員に対しては、その譲渡したことを前提として権利を主張できないものとなる。

本件の場合、原告等は、前記組合は既に昭和二八年一月中か遅くとも同年三月中には解散し、その後清算が終つていると主張するが、まずこの解散があつたか否かが疑問である。なぜならば、前記有限会社が組合の飲食店等の経営を引き継いだことは前に認定したとおりであるが、その場合に本件建物を所有してこれを同会社に提供するという事業はなお残り、その範囲では前記組合事業の一部が残り、未だ組合は解散していないという見方も全くあり得ない訳ではないからである。しかし、ともかくも仮りに解散の事実があつたとしても清算が終つたという点についてはこれを認め得る証拠は何もない。甲第二号証は原告等の主張する清算の内容を立証するものとしても見られるが、同書証の内容は未だ被告等によつて確認されてもいないし、組合の事業そのものについても会計決算が行われていないことは前出の甲第六号証や被告両名の本人尋問の結果によつてもわかるのみならず、むしろ想像をめぐらせば、その会計決算が行われていないことが本訴の紛争の原因となつたことも、右証拠によつてうかがわれるので、解散後の清算が終つているとはとうてい認められない。そうとすれば、他のことをしらべるまでもなく、前記組合員ゲイダの共有持分を譲り受けたという原告ウエードの主張は、被告等に対してこれをすることができないことになり、その主張を前提とする同原告の本訴請求はこれ以上判断しなくても排斥を争れないことが明である。そして、被告等が原告ウエードの持分譲受に関する主張を全面的に争つているうちには、以上のような持分の譲受についての対抗力のないことの主張も含まれているものと理解される。

4、原告ヘンドリーの共有持分の割合について

原告ヘンドリーが本件建物について持つている共有持分の割合はどの位か。そのことに判断を与える前に、本件の場合、特定の組合財産である本件建物に対する原告ヘンドリーの共有持分の割合を被告等との間で、この訴訟で、きめる必要があるかを考えて見る必要がある。

本件の場合組合は未だ続いているか或は解散したとしても未だ清算が終つていないかのいずれかであること、その間は組合員の一部がその共有持分を他に処分しても、そのことを他の組合員に対して対抗し得ないことは前に判断したとおりである。そうとすれば、組合員相互の間で組合員各自の共有持分の割合をきめる何の必要があろうか。若し必要があるとすれば、将来清算終了の結果、残余財産を分割し或は共有のまゝの状態を続ける場合であるが、このことは将来のことであつて、今、清算中にきめて置かなければならないことではない。また、組合員全員の同意で一部組合員の共有持分を他に処分するときには、第三者の関係が入るから持分の割合をきめる必要があろうが、そのときに全員同意でその持分の割合をきめることになるであろうし、それで足りることである。さらに組合又は組合員と第三者との関係については民法第六七四条、第六七五条、第二五〇条で第三者の保護がはかられているし、その結果をきらう組合員は直接その第三者と持分の割合について争えばよいことで、そのような場合に備えて組合員間で持分の割合をいまきめて置く必要はない。もちろん、組合員相互で任意に組合の個々の特定財産について同率か、それぞれ異つた率かに(例えば甲の財産については出資額に応じ、乙の財産については組合員の頭数に平均して)きめることもあろうが、清算の結果その特定財産が残余財産となつた場合の分配の基準は、その財産について予めきめられた持分の割合ではなくて、組合の総財産についての約定または法律(民法第六八八条参照)による分配基準であつて、それがその特定財産上の持分と一致しても観念的には偶然のことに過ぎないから、少くとも組合員間では総組合財産についての共有持分をきめることは将来の残余財産の分配基準をきめる意味で意義があつても特定の財産についてこれをきめる意義はない。このように考えて見ると、組合員である原告ヘンドリーと被告等との間で本件建物についての共有持分の割合をいま訴訟までしてきめる必要はなく、要するに同人等は本件建物について共有の関係にあることだけを明にしておけばよいことになる。

そうとすれば、同原告の本件建物に対する共有権の主張は許されるべきであるが、その共有持分の割合についての主張はこれを判断する必要がなく、また、許すべきではない。

5、原告ヘンドリーの共有持分登記の請求について

以上のとおりであるから、原告ヘンドリーがその主張の割合による共有持分の移転登記を求めるのも許されないことは明である。もつとも、この登記手続の請求には同原告は被告等とともに本件建物の共有権者であることのみを表示する登記の手続について被告等の協力を求める請求が含まれていないか、と考えて見る余地はないではないが、原告の求めるような移転登記手続ではその目的とするこの後の意味の登記は得られないし、その他にその目的を達するのに必要な登記手続の具体的な選択は同原告が自らすべきで、裁判所が原告のためにその手段を考え出して、それに対応する被告等の協力を命ずべきでもなく、法律に定められた「釈明権」で、予め同原告に右目的を達するのに必要な請求を用意させて置く裁判所の責務もないので、同原告の求める右登記手続に代る登記手続を命ずることをしない。

6、従つて、原告ヘンドリーが被告等に対し、同原告は被告等と本件建物を共有する旨の確認を求める限度で、本訴請求を認容し、その余の原告等の請求を失当として棄却することとし、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治)

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